序章【1】



ある人は言う
人を愛することは難しいと
ある人は言う
この世は金がすべてだと
ある人は言う
人は自分のことしか考えられないと
ある人は言う
人は自分以外は認めないと
ある子供は聞く
生きることは楽しいのかと
ある大人は答える
世の中には知らないほうがいいことがあるんだと

身体が海の奥深くに沈んでいるような気がした。
辺りは恐ろしいほど静まり返っていて、真っ暗で何も見えない。
青年は考えた。
自分は今どこにいるのだろう。
「お目覚めですか?」
どこからともなく機械音声がした。
「おまえはあるゲームの参加者に選ばれました。拒否権はありません」
その声は誰に向けられたものでもなく、片言で話を続ける。
「ゲームの参加者はおまえの他にも数人います。おまえは今日からそいつらと共に暮らしながら、こちらが与えた指令を熟なしてください。指令をクリアしないと元の世界には戻れません。説明は以上です。あとはゲームを体験しながら学んでください」
はっと目が覚めると心当たりの無い部屋で仰向けになっていた。
窓から入ってきた夕日の光が部屋をオレンジ色に染めている。
「今のは夢か?」
青年はそうつぶやきながら身体を起こした。
畳八丈の狭くも広くも無い部屋だ。小さな四角いテーブルと引き出しが三つついた箪笥があり、部屋の隅には綺麗に畳まれた布団が置いてあった。



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